バイオ医薬産業立国を目指す中国−バイオジェネリックを足がかりとする中国の課題
近年バイオ医薬の発達が目覚しいが、中国もバイオ医薬に力を入れてきている。中国政府は自国のハイテク産業を先進国並に発展させるべく、1986年に「ハイテク研究発展計画」(863計画)を発表し、積極的な先端技術開発や投資、科学技術専門家の育成を進めてきた。Genetic Engineering Newsによると、世界的なバイオ医薬品市場の中で中国は7%以下とまだ市場規模は小さく、バイオジェネリックが大半を占めている。しかし、2005年度の中国バイオ医薬品産業の売上収益は$3.8 Billion USDで、その前年より30.21%の成長を遂げたという(Vol. 26, No.20, Nov. 15, 2006)。また、2006年3月に承認された中華人民共和国国民経済・社会発展第十一次五ヵ年規画綱要(第11次5か年計画)では、2006年から2010年にかけて中国政府はバイオテクノロジーセクターの中でもバイオ医薬への投資を強化することを発表1 。新薬開発支援のため、投資額は$1.3 Billion USDに達するようだ。今後、中国は知的財産問題を解消し、独自の技術を用いた医薬品の産業化および先進国から認められる規制体制の構築が進めば、20年以内に中国は世界のバイオ医薬産業で活躍する国の1つとして成長が見込まれている2 。欧米より規制の緩やかな中国で製造されるバイオジェネリック バイオ医薬品の定義は多岐に渡るが、広義では、バイオテクノロジーを使って開発された生物由来の生物製剤を指す。一般的に次の3つが該当する:(1)ヒト型ホルモンや酵素、血液成分、ワクチン、モノクローナル抗体など、「組換えDNA技術あるいは細胞培養技術を応用して生産され、組み換え医薬品あるいは細胞培養医薬品として臨床に使用されているタンパク質性医薬品」、(2)ヒト由来のベクター(治療効果を発揮する組み換え遺伝子を導入した分子)使った遺伝子治療用医薬品、(3)自己の皮膚細胞や樹状細胞、骨髄細胞などを培養して再生医療などに用いられる細胞組織利用医薬品3 。 (1)で示した生体機能に影響を与えるタンパク質などは、体内で微量にしか産生されない。これらを医薬品として用いるには、高純度の物質を確保しながらそれを大量生産できる設備が必要だ。また、バイオ医薬品は生物由来であることから高度な生産や精製の技術を要するため、かつては生産設備への高額な投資が課題だった。しかし、バイオテクノロジーが発達したことで、微量でしか手に入らなかった生体内物質の大量生産が可能となった。 1980年代に上市された代表的な第一世代のバイオ医薬品として、糖尿病治療薬となるヒトインスリン、肝炎治療に用いるインターフェロン(IFN)、下垂体性小人症治療薬の成長ホルモン、腎性貧血治療薬のエリスロポエチン(EPO)や抗癌治療で白血球増殖を促すヒト顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などがある。これらはすでに特許満了または今後数年以内に迎えるため、安価に開発できるバイオジェネリックに注目が集まっている。多くのバイオ医薬品を開発してきた欧米では、特許問題や生物学的同等性の証明が必要なバイオジェネリックの承認に慎重であるものの(注釈) 、中国はバイオジェネリックを足がかりにバイオ医薬産業を開拓したい構えのようだ。欧州の生物学的同等性試験に注目−方法論の確立を待つ 中国の国家薬品監督管理局(State Food Drug Administration:SFDA)はバイオジェネリックの定義を正式に公表していないが、Genetic Engineering Newsによると、同国でのバイオジェネリックは特許満了したバイオ医薬品と、中国が2001年にWTO加盟する前に国内企業によって製造されたジェネリックの生物製剤の両者を指すという4 。1989年に肝炎治療薬として、組み換え型IFNα-1bのバイオジェネリック薬が初めて中国で承認されて以来、30のバイオ医薬品が同国で上市された。中国で製造されたバイオジェネリックの多くは、B型C型肝炎や抗癌剤、白血球減少治療や貧血治療に使われる遺伝子組み換えヒト型IFNやインターロイキン、G-CSF、EPOなどである。その中でも遺伝子組み換えヒト型IFNやEPO、G-CSFを自社開発したShenyang Sunshine Pharmaceutical Company Ltdは、2007年2月に米国のベンチャー株式市場NASDAQに上場した。 なお、中国は全てのバイオジェネリックの審査に臨床試験を課しており、現在、生物学的同等性試験(Bio Equivalency: BE)を臨床試験に置き換えることは認めていない。同国は特に欧州の遺伝子組み換えヒト型ホルモンに対するBE試験法に注目しており、今後は方法論が十分に確立されれば臨床試験の代わりにBE導入も検討する姿勢だ5 。依然として課題が多い知的財産管理と規制当局の厳格な監視体制構築 中国バイオ医薬品企業における、ここ4〜5年の年次売上収益は25%の成長を示しているが、前述したようにジェネリックが9割以上を占めている。先進国に導出できる医薬品を開発するには、今後、欧米の動向に習ってバイオジェネリックの定義を明確化し、BEを行うことを求められるだろう。バイオ医薬産業国として中国が台頭するには、まず知的財産に対する意識強化と管理の徹底、そして常に問題となっている規制当局および地方政府による汚職の排除、新薬承認プロセスの改善と厳重な監視機能を持つことだ。また、新規の科学的探索と発見を培える環境や熟練した科学的専門家の確保、国内の技術プラットホームと研究によるパイプラインの拡充など、産業規模の拡大を図れる健全な市場の形成も求められている。さらに、中国の都心部と農村部の医療格差解消、贈収賄による薬価の押し上げや過剰医療による医療費の高騰、そして医療保険制度が是正されないと、ジェネリックを含めたバイオ医薬品の市場拡大は難しい。 最後に先日、元SFDA局長に死刑が言い渡された6 。2004年に薬品生産品質管理規範の認証制度(GMP認証制度)の策定およびその普及に努めたこの元SFDA局長と関係者らは、改ざんデータで申請された医薬品の不正承認と引き換えに、自国の製薬企業数社から賄賂を受けとり、昨年逮捕された。きっかけは、中国で医薬品投与を受けていた10例以上の患者が死亡したことだった。バイオ医薬の製品化には、品質の一定性や恒常性の確保と製造工程の妥当性評価を行い、高い品質を維持する管理体制が重要である。中国がバイオ医薬産業を発展させるならば、医薬品承認にあたって中国政府は不正行為に厳格な姿勢で対処し続けることが求められる。 【出典・参考資料】 1."Chinese Government to Increase Investment into Biopharmaceuticals" 2007年5月21日 China Pharma 2.“China-Grown Pharma Products-Country Taking Steps to Improve its Production and Regulatory Standards”Genetic Engineering News Volume 26, Number 20, November 15, 2006. 3.「バイオ医薬品の開発動向およびその品質評価の課題」国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部 川西 徹 4.“Chinese Biogenerics and Protection of IP” Genetic Engineering News. Volume 26, Number 16, September 1, 2006. 5.U.S.-China JCCT Pharmaceuticals and Medical Devices Subgroup Meeting Summary. March 28 and 29, 2006, Beijing. 6.「医薬行政トップに死刑判決、製薬会社から収賄」中国情報局 News 2007年5月29日http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0529 &f=national_0529_005.shtml (注釈)バイオ医薬品は高度な生産技術と複雑な製造工程を伴う。バイオジェネリックと呼ぶには、先発のバイオ医薬品と同じ生物学的同等性と同質性が証明されなければならないため、欧米規制当局はバイオジェネリックに対して慎重な姿勢を示している。 2006年、欧州医薬品庁(EMEA)はPfizerのヒト成長ホルモンGenotropinのジェネリックであるOmnitrope(Sandoz社)に肯定的見解を示し、FDAは同剤を承認した。また、EMEAはEli Lillyのヒト成長ホルモンHumatropeのジェネリックであるValtropin(Biopartner社)を承認したがFDAは認めていない。しかし、両規制当局はバイオ医薬の後発品のカテゴリー名についてバイオジェネリックではなく、”follow-on protein(FDA)”や”biosimilar(EMEA)”と呼んでいる。