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FDA ワルファリン投与時の遺伝子検査を医薬品添付文書に記載−分子診断市場の成長に期待感
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富士経済USAは、世界の分子診断市場は2011年に177億米ドル(2006年の2.2倍)まで達し、日本も2桁の成長が期待されると報告した1。そのうち、最も市場規模の大きい臨床向け分子診断ラボサービスは106億米ドルになることを予測。他の診断ラボ向けの測定装置、対外診断用消耗品などの市場についても拡大傾向にあるという。このような背景には、遺伝子の病気とさえ言われるようになった癌領域だけでなく、HIVなどの感染症、アルツハイマー病、生活習慣病などの発症リスクや、薬物治療に対する効果や安全性を調べるために、遺伝子検査を含む分子診断が創薬や臨床の場で用いられるようになったことを反映しているのだろう。 分子診断の先駆けとして米国では、1998年に転移性乳癌治療薬トラスツズマブ(商品名Herceptin(R) 、Roche社)適用例を識別する体外診断薬HercepTest(TM)(IHC社)や、2005年に抗がん剤の塩酸イリノテカン(商品名Camptosar (R)、Pfizer社)代謝に関る酵素UGT1A1の遺伝子多型の検査キットInvader (R) UGT1A1 Molecular Assay(Third Wave Thechnologies社)が承認された。今後、体外診断薬の技術評価や測定結果解釈の標準化という問題はあるが(MediBIC View Recent Topics 2007年4月号参照)、ここ数年、米食品医薬品局(FDA)承認または未承認の体外診断薬が多く発売されており、Personalized Medicine(「個の医療」、「個別化医療」等と呼ばれる)は米国で実用化されつつある。特筆すべきこととして、かねてより議論されていた抗血液凝固剤ワルファリン(商品名Coumadin (R) )の処方量と関係する遺伝子多型を記載した改訂添付文書を、ついにFDAが承認したことである。遺伝子検査に基づいて患者に適切な投薬量を処方する個の医療の体制が、米国でまた一歩進んだことになる。 |
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ワルファリン投与量の調整を明示、遺伝子検査費用は約350米ドル
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2007年8月16日、FDAは米国Bristrol-Myers Squibb社に対し、抗血液凝固剤 ワルファリン(商品名Coumadin (R) )治療に関係する遺伝子多型の情報を盛り込んだ改定添付文書を承認した2。ワルファリンは血栓塞栓症の治療及び予防など広範に用いられている。しかし、効果(抗血液凝固作用)と毒性(組織、臓器出血)のバランスを量るには、病状、血液凝固能、年齢、合併症など患者側因子のほか、薬物代謝に影響する飲食物や併用薬剤にも注意が必要となる。また、ワルファリンに対する感受性は患者間だけでなく、同一個人においても変化がみられるため投与レジメ決定や服薬管理も重要である。米国では糖尿病患者へのインスリン投与に次ぎ、ワルファリンの副作用によって救急治療室行きになるケースが多い。その数はワルファリン服薬例約200万人のうち4万3千人になるという3。 特定の遺伝子型ではワルファリンの投薬量に対して十分な効果が出なかったり、逆に出血をきたしやすい患者が潜在する。ワルファリンの薬物代謝酵素CYP2C9(注1)や、血液凝固に関係する酵素VKORC1(注2)の遺伝子多型によって、ワルファリン代謝速度に違いが認められるため、患者毎に適切な投与量や投与回数を判断する情報の1つとして、遺伝子多型を調べることの有用性がこれまで専門家およびFDAで議論されてきた。今回の改定添付文書では、2つの遺伝子の多型により抗凝固作用を得る投与量が異なるという臨床データを掲載し、どの程度の投与量調整が必要かを明示した。遺伝子検査費用は、採血費用も含み約350米ドル3。 また、2006年にFDAが公表したバイオマーカー一覧表では、FDAが認可した医療用医薬品の薬物代謝、臨床効果や毒性との関連が示唆されるバイオマーカー(注3)と引用文献がまとめられている4。今回のワルファリンのように、医薬品添付文書の中にもバイオマーカーと臨床的反応の関連が記載されてきている(MediBIC View Recent Topics 2007年7月号参照)。FDAのバイオマーカー一覧表ではワルファリン代謝とCYP2C9遺伝子多型の関係は「参考情報(Information only)」としていたが、今回の改訂でバイオマーカーを使った治療の目安が示されたと考えてよいだろう。
注1 CYP2C9:ワルファリン代謝に関与する肝酵素チトクロームP450 2C9 注2 VKORC1:ビタミンK依存性凝固因子の生成に関与するビタミンKエポキシド還元酵素。ビタミンKは血液凝固因子の活性に関与する 注3 バイオマーカー:疾患や治療効果の生物学的指標となる遺伝子や薬剤の分子標的部位 |
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米国の動きを認知しているものの、規制およびインフラ整備が進まない日本
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一方、わが国では厚生労働省医薬食品局が、前述のワルファリン治療に関連する遺伝子多型があることや、UGT1A1遺伝子多型の遺伝子検査薬が米国で承認されたことを、同省ホームページにある「医薬品・医療機器安全性情報」の中で伝えている5。一部の抗がん剤は添付文書「効能・効果」の項で、免疫組織学的検査あるいは遺伝子検査の結果を投与例の条件として掲載しているが(例.「検査陽性例」などの表記)、特定の体外診断薬名を記載しているわけではない。遺伝子検査でも原則として、厚生労働省が体外診断用医薬品として承認したものが保険収載され、未承認のものは研究用試薬扱いであり、日常診療での使用には種々問題がある。前述の塩酸イリノテカンは1994年の国内での製造承認以来、大腸癌、胃癌など多くの固形癌で使用されており、副作用については問題視する声があったが、ようやく今年2月にUGT1A1遺伝子多型の検査法が申請された(注4)。 なお今年8月、厚生労働省が発表した平成19年度実績評価書の概要によると、いわゆるゲノム創薬(ゲノミクス、プロテオミクス、メタボロミクスなどのオミクス)を応用した新薬開発は激化しており、新薬開発の成果が3年後にはみられるという6。しかし新しい医薬品・医療機器が医療現場に流通するまでには臨床試験をするなど膨大な費用と時間を要し、安全性確保のための薬事規制等のハードルをこえなければいけない。2005年に日本製薬工業協会が発表した、ゲノム解析を含む臨床試験実施のためのガイダンス(「医薬品の臨床試験におけるファーマコゲノミクス実施に考慮すべき事項(案)、2005年7月」)の最終版は未だ公表されていない(2007.8月末時点)。 基礎研究の分野では、日本のライフサイエンス研究予算は米国の約10分の1程度である3,471億円にとどまるが(平成18年度、内閣府調べによる)、厚生労働省は資源配分を重点化することで、ゲノム創薬による医薬品等の実現化を期待している。はたして、このような期待感は我々国民には実感できているであろうか。 科学技術の進歩により創薬だけでなく、診断や治療の分野でゲノム情報が用いられるようになったが、日本では薬事行政を含め周辺のインフラ整備の難しさを感じる状況である。
注4 第一化学薬品株式会社が2007年2月1日 UGT1A1遺伝子多型判定用の体外診断用医薬品として製造販売承認申請している
【出典/参考資料】
1.富士経済USA http://www.fuji-keizai.com/ 「世界市場・業界調査−分子診断市場の動向」富士経済USA 2007年6月12日発刊 http://www.group.fuji-keizai.co.jp/b0706/page2620. html
2.:FDAワルファリン添付文書改定発表記事 http://www.fda.gov/bbs/topics/NEWS/2007/NEW01684.h tml
3.Critical Path Initiative ; Warfarin Dosing http://www.fda.gov/oc/initiatives/criticalpath/war farin.html
4. Table of Valid Genomic Biomarkers in the Context of Approved Drug Labels http://www.fda.gov/cder/genomics/genomic_biomarker s_table.htm
5.厚生労働省医薬食品局 医薬品・医療機器安全性情報 No.235(2007年4月)資料2 http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anze nseijyouhou/235.pdf
6.厚生労働省 平成19年度実績評価書 http://www.mhlw.go.jp/wp/seisaku/hyouka/dl/i-9-b.p df
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